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住人の生命や財産を守る集合住宅の防犯対策
住宅を狙った侵入窃盗事件が増えています。とくに昨今では、強盗などの侵入窃盗を行うだけでなく、住人が居てもお構いなしの強硬な犯行も発生し、防犯対策として人が居る気配を醸し出しても不十分なケースが少なくありません。要は狙われないことや侵入させないことが大事になります。ここでは、集合住宅における侵入窃盗の防犯対策について考えていきます。
侵入による刑法犯認知件数は、平成8年から平成14年にかけて増加し、14年には約285万件に達しました。その後平成15年から減少に転じたものの、令和4年には再び増加傾向にあり、60万1,389件の認知件数を記録しています。このうち、住宅を対象とした侵入窃盗は1万5,692件に上ります。(令和4年|警察庁統計)
住宅を狙う侵入窃盗犯罪というと、戸建て住宅が狙われるケースを想像しがちですが、それだけではありません。令和4年の侵入窃盗の発生場所別認知件数は、戸建て住宅が33.0%と最も多いですが、集合住宅だけでも12.1%と戸建て住宅の半数近くに上り、一般事務所や商店、深夜飲食店等の生活環境営業を含めると、不動産会社が管理する物件という範疇では37.8%と戸建て住宅を超える発生件数になります。
集合住宅における侵入窃盗事件は、管理物件においても窃盗や強盗といった実際の被害に留まらず、危険や損害が管理者にまで及ぶケースや、直接的ではないものの物件の価値を下げるといった重大な被害にもつながりますので、十分な対策が必要です。
戸建て住宅と比べて安全と思われがちな集合住宅ですが、一方で戸建て住宅よりも狙われやすい場合があります。敷地内への住人自体の出入りが多く、それぞれ住人全員を知っているわけではないことや、住人以外の宅配業者や訪問客などの全体の出入りも住人の人数に相対して増えて、それがリスクとなり得るのです。
また建物が大きくなるほど死角が増えることなども挙げられます。ここのところ、窓ガラスを破壊して住居内に押し入る等悪質な手口による侵入強盗事件が発生しており、こういったケースでは、高層階や道路など外部環境から目が届きにくい場所が多いなど、集合住宅にもリスクが存在します。
集合住宅でよく見かける住戸玄関とエントランスで都合2段構えのセキュリティとなるオートロックにも過信は禁物です。今や物件を選ぶ際のポイントのひとつとして集合住宅に欠かせない設備ですが、オートロックにも絶対はなく、犯罪者の手口として次のようなものが想定されるため注意が必要です。
・住人と一緒に侵入されるケース(共連れ)
自分も住人であるかのように振舞って、住人の後に付いてオートロックを通過する。
・宅配業者などと一緒にまたは、なりすまして侵入されるケース
宅配業者、電気や水道・ガス会社、放送受信料の集金人などの後に続いて侵入、またはそれ自体になりすまして侵入する。
・暗証番号を不正に利用して侵入されるケース
犯罪者は下見をすることが多く、番号を入力しているところを盗み見られ、犯行に悪用されることもあります。
・鍵を使って侵入されるケース
落とした鍵を拾って使用したり、その鍵や盗み見た鍵番号などから、鍵を複製して侵入されたりすることが考えられます。前の住人が持つ合鍵や、住人から合鍵を共有された第三者の場合もあります。
・オートロック以外の場所から侵入されるケース
たとえば、勝手口や非常階段、塀を越えたり、雨樋や外壁についている排水管をよじ登って、ベランダから侵入したりするなど。
・マンションの住人が犯行に及ぶケース
同じマンションの住人が犯人という事件も発生しています。
オートロックといえど過信せず、顔見知りでない場合は一緒に入らない、日頃から住人同士との挨拶を心がける、宅配業者が来たときには、宅配ボックスに入れるようお願いしたり、どこからの荷物か確認してから通すなど、住人側の意識を高めることや管理上のルールを徹底する、エントランス以外の侵入ルートがないか事前に調査し対応するといった管理側の姿勢も不可欠です。
さらに最も危険なのは、オートロックがあるからといって部屋の玄関などを施錠せず、ゴミ捨てや外出をしてしまうケースです。玄関や窓などの開口部は施錠を徹底し、廊下や外から侵入できそうな窓には格子を付けるなどの対策が必要です。
また集合住宅の防犯対策で大切なのは、戸建てと同様に、まず侵入窃盗の犯罪者の視点に立ち、どこが危険かを見極め、狙われやすい部分、防犯の穴を見つけ、その結果に応じて防犯設備を強化し、足りない部分があれば補完することです。これこそが防犯環境を整えて、犯罪が起きにくい環境を作る「防犯環境設計」という考え方です。
「防犯環境設計」には、直接的な手法として「対象物の強化」と「接近の制御」、間接的な手法として「監視性の確保」、「領域性の確保」があり、これらを総合的に組み合わせることが重要です。
対象物の強化は、防犯性の高い建物を構築するために行うことです。補助錠を付けたり、鍵や窓などにはCP部品(防犯建物部品)等を使用することで、住宅や管理物件の防犯性を強化します。
接近の制御も、防犯性の高い建物を構築するために行うことです。侵入経路を制御するための塀やゲート、フェンス、オートロックのついたエントランス設備などがそれにあたります。手薄な場合は追加・増設を検討しましょう。
監視性の確保とは、外部からの監視の目を遮らないようにすることです。植栽の剪定や防犯カメラの設置、照明環境の改善等があります。
領域性の確保は地域のコミュニティを形成し、部外者が当該エリアに侵入しにくい環境をつくることです。ひとりではむずかしい対策でもありますが、普段から地域の人たちと挨拶を励行することも一つです。また、1枚の割られた窓ガラスをそのままにしていると、さらに割られる窓ガラスが増え、いずれ街全体が荒廃してしまうという「割れ窓理論」が想定されるような、落書きの放置や公共物の破損などをなくしたり、ゴミの早期収拾を行ったりして、健全な環境を整備していくようにします。
増加傾向にある侵入窃盗犯罪や強盗犯罪などに住人が必要以上に恐れずに済むよう、防犯対策の行き届いた物件づくりを意識してみましょう。集合住宅や管理物件の現状を確認し、日ごろから防犯のプロとの関係を築いたり、防犯意識を高めるといった、住人のために準備することが大切です。
侵入のきっかけになりそうな場所や、対策の手薄なポイントを自らチェックし、時としてプロのアドバイスを受けることで、安全・安心に暮らせる集合住宅の防犯環境を構築しましょう。